おさとは、どういう形でも松太郎のそばにいることが自分の幸せだと、ただ自分に言い聞かせていただけだったのだ。だがしかし、ひと月ふた月と時が過ぎてゆくうちに、それがどんなにおかしなことであるか、きれいな事ではあるけれど、どれほど自分の心を損なうことであるか、賢い娘のことだ、じわじわと悟っていたのだろう。
おさとの心は、飛び出すときを待っていた。松太郎を断ち切るべきときが来るのを。なにか些細なことでも、おさとが、自分で自分の恋心に対して、言い訳が立つように。-宮部みゆき『初ものがたり』
だいたい、本当に自足していたら振り向いてもらえない人のことはいつまでも好きにならないように、いつの間にかなってしまう。
片想いの暗い面とはお別れするというか。-吉本ばなな『パイナップルヘッド』
前者は高校生の頃、ものすごい反発をおぼえた文章なのですが、いまとなってはほんとにそうだよなーと思う。報われなくても好きでいつづけるのが美徳、っていう風潮があるような気がするんだけど、好かれないのに好きでいつづけるって、精神衛生上よろしくない。
切ない片思いの楽しさっていうのは存在すると思いますが、やるなら、趣味で切なさ辛さを味わってんだ、ってことを忘れないほうがいいと思うんですよね。でないとほんとに、取り返しがつかないほど心が損なわれてしまう。「ただ好きなだけなの!」ってさめざめと泣くようになっちゃったら、もうそれちょっとだいぶ危ないとこに踏み込みかけてる気がするんですよねー。片思いって切なくて苦しいもの、ってことになってるから気がつきにくいけど。
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