ミドリコ雑記帖

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北村薫『盤上の敵』

盤上の敵
追いつめられるとどんどん辛いことをしようとするのが悪い癖で、ここ数日わざわざ自分がへこむような本を読んだりサイトをめぐったり。ミドリコ相手に完全犯罪を企もうと思ったら、寸止めにして放置しておけばレミングのように自主的に海に飛び込んでいくと思います。手を汚さずに殺せるよ(笑)
それはさておき、そういうわけで思わず再読してしまったこの本。やっぱりいいなあ。好きだなあ。作者が自ら「物語によって安らぎや癒しを求めたい人には、この本は不向きです」と断っている作品なのですが、ミドリコはこれを読むととても安心するのです。なんか、暗い夜の中で足許に開いた淵を覗き込むような感じ。心がしいんと冷えて感覚が冴えて、痛みや残酷さをつめたく待ち受ける感じ。
……痛いのとか怖いのとか残酷なのとか、ほんとは全然駄目なんですけどね、北村薫だと許せるんですよね。「どこまで追いつめにくるのか見てみようじゃないの」みたいな気持ちになります。
「なまもの!」の大矢博子さんは評価してないみたいなんですが、ミドリコは、これは北村薫にしか書けない凄い(凄まじい)語だと思います。他の人が書いたんじゃなくて、『空飛ぶ馬』や『スキップ』や『月の砂漠をさばさばと』を書く北村薫が書くからこそ凄いんだよなーと。あれだけやさしく細やかな目を持った人がこの物語を書いた、ということが凄い。むしろ、あの眼差しで丁寧に描かれるからこそ、これでもかこれでもかとたたみかけるように迫る運命の悪意に胸が冷えるのだし、運命の非情さを微に入り細に入り思い描くことのできる人だから、やわらかな物語が、「ただ甘い」だけのものにならないのだと思います。どういう経緯でできた物語なのか知らないですが、ミドリコには、これは作家北村薫にとって、ぜったいに書かなければならない物語だったと思えるのです。