ミドリコ雑記帖

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歌うのが久しぶりの後輩たちと合唱のステージに立って考えたこと

大学時代の後輩たちと、小さな音楽祭に出演してきました。



私が大学時代に所属していた合唱団は、どちらかというと人に惹かれて集まってきたメンバーが多かったので、現役時代は自分たちなりに熱心に頑張っていても、卒業してからも合唱を続けているメンバーは多くありません。歌どころではない生活をしていて、毎週合唱団の練習に通うような余裕もなく、そうこうしているうちに時間が経ってしまってもう声も出ない、という話をよく聞きます。

私自身は合唱団には所属していないけれど、歌のレッスンは続けているし、公募合唱団にたまに参加したりもして、さほど不満はないのですが、先輩後輩の「たまにとても歌いたくなるんだけどいまさら歌える場所がない」という話を聞いて、歌いたいと言っていることを嬉しく思いつつ、歌う場所がないことを切なくも思っていました。

そんな中で、後輩たちの歌の集まりに参加させてもらうことになりました。実家のお寺で住職をしている後輩が、近い代のOBたちに呼びかけて、自坊の報恩講でミニコンサートを開催しており、今度はお寺の集まりの音楽祭に出るので、ミドリコさんもどうですか、と声をかけてもらったのです。ちょうど一年前のことです。

久しぶりに懐かしい仲間と歌えることが楽しく、また先輩面をしてあれこれ口出ししたら演奏がよくなっていくのが嬉しくて、その年の秋の報恩講も一緒に歌わせてもらい、一年後の今回、また同じ音楽祭に出演したというわけです。



普段は歌っていないメンバーが大半ということもあり、演奏について注文をつける小うるさい人間は私の他にはいなかったので、自然と私が練習を仕切ることになりました。先輩を立ててくれる子たちなので、実際はただ遠慮していただけなのかもしれませんが、みんなもそれなりに楽しんでくれていたと思います。

私にとっても、楽譜を見ながら、練習の録音を聞きながら、「これはどういう曲なのかな」「どう表現したらいいかな」「この違和感は何のせいなのかな」「どうしたら良くなるかな」と考えるのは楽しい作業でした。

その間に、いろんなことを考えました。



歌いたいと思うたくさんの魅力的な曲たちは、継続的に活動している合唱団が委嘱したから生まれたもので、歌いつないでくれている合唱団があるから出版されて、買うことができるものです。毎週合唱団の練習に参加して、演奏会を開いてコンクールに出て、という人たちは本当にすごいし、ありがたいとも思います。
でも、たまには歌いたいよね、で集まって歌うような楽しみ方も、あっていいんじゃないかなと思ったのでした。一度歌うのをやめてしまったらもう合唱曲は歌えない、というのではあまりに寂しい。たまに集まって歌って、それがただ声を出せる楽しみだけじゃなく、少しだけでも音楽的な何かになってほしい。

私は合唱というジャンルが好きなので、合唱の楽しみが、上を目指す人たちだけのものだとは思いたくないんだと思います。いくつになっても、長く離れていても、歌いたいときに歌って楽しめるものであってほしい。実際には無理なことなのかもしれないけど、無理なんだと分かるまでは、その方向に向けて頑張りたい。

一方で、久しぶりに歌いたいと集まった人たちに向かって、あれこれ注文をつけることへのためらいもありました。楽しみたくて集まってきた人たちが、そんなにやいやい言われるならもう歌いたくないわ、と思ってしまうようなことにはしたくありません。でも、何か少しでも、そこに音楽の楽しみがあってほしい、という思いもあります。これは私のわがままだけれど、絶対にその方が楽しいはずだと思うのです。

悩んだ末に、「ひさしぶりに集まって楽しく歌うことが一番だから、楽しめないと思うのなら私の言うことは無視してくれていい。でも、せっかくこうやって集まっているんだから、お互いの声を聞き合いながら歌いたい。一緒に歌っていることを大事にしたい」という話をしました。
このときは、音楽的なことというよりは精神的なこととして考えていて、うまくなくても、一緒に楽しく歌っていることが観客に伝わるといいな、という気持ちでした。



やっとメンバー全員が揃った当日の練習で、結局はあれこれ注文をつけながら、「ここは一緒にブレスして入りたい」「お互いにコンタクトを取って歌いたい」「この部分はもっと寄り添って歌いたい」と言っていたら、音楽が変わっていくのを感じました。
本番では、歌いながら、「みんなで一緒に歌ってるんだ」と感じて、何度か泣きそうになりました。緊張したし、できなかったこともたくさんあるけど、とても楽しい時間でした。

帰り道、乗せてもらった後輩の車でおそるおそる録音を聞きました。自分のミスに出くわしては悲鳴をあげながら、「でも、これ、すごくいいんじゃない!?」と言い合いました。欠点はたくさんあるけど、それでも良い演奏だと思えました。

長いこと合唱をやっていながら、お互いに聞き合っているユニゾンがこんなにもひとつで美しいってことを知らなかったし、一緒に歌い出したフレーズが、ハモっているけどまるでひとつの音みたいに聞こえるっていうことも知らなかった。うまい人だけの特権じゃなくて、何年も歌っていないメンバーが数回練習しただけでもこういうことができるんだと知って、とても力づけられました。今回見えたものに向かって、もっと頑張りたい、と思えたステージでした。