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大矢博子『脳天気にもホドがある。燃えドラ夫婦のリハビリ日記』

脳天気にもホドがある。 ―燃えドラ夫婦のリハビリ日記

脳天気にもホドがある。 ―燃えドラ夫婦のリハビリ日記

「なまもの!」というサイトが好きで、10年くらい前からずっと通っていました。ミステリ書評サイトという名目だけど、日々結構な長さで更新される隠し日記(当時。いまは公開日記になってます)が好きで、面白かった部分はこっそりコピーして友人にメールで送ったりしていました。「兄のキョコン」とか、「ピアノの調教師」とか、いま思い出しても笑えます。
その日記の更新が、2008年11月、突然途絶えました。どうしたのかなと思いながら半年。復活した日記で、旦那さんが脳出血で倒れ、一命をとりとめたものの右半身の麻痺と言語障害の後遺症が残ったことが明かされました。
この本は、その半年間(と、退院後の半年、つまり倒れてからの一年)を綴った日記です。

なんですが。

大矢さんのなまもの!といえば、ミステリ書評サイトと銘打っているにもかかわらず、「お笑い日記サイト」「ダジャレサイト」あるいは「野球サイト」と各方面から評され、読者もミステリの話題よりもダジャレやスポーツネタへの反応のほうが良いようなサイト。リハビリ日記であってもそのテイストは変わらない! いや、文体なんかは日記より若干改まった雰囲気ですが、日常生活の中に野球(ドラゴンズ)とか鉄道(旦那さんのご趣味なんですよね)とかダジャレがあふれている感じはそのまんま。て、考えてみれば当たり前かな、サイトの日記もリハビリ日記も、日常の一部を切り取ったもので、大矢ご夫妻にはリハビリもドラゴンズも鉄道もダジャレもそのまんま、日常の一部なんだもの。「妻の名前が出て来ないのに電車の車両の型式は言えた」とか「言葉もほとんど出ないのにPCのパスワード(13桁の無意味な数字の羅列)は出てきた」とか、なんでやねん!なエピソードもいっぱい、笑ってちょっと泣けてでもまた笑えて、の、楽しい本でした。
ご本人がまえがきで「リハビリより鉄道、介護よりドラゴンズという脳天気な夫婦の、発病から一年のお笑いリハビリ日記です」と書かれていますが、闘病中の人、介護中の人が読んだら、ちょっと肩の力が抜けるかも、と思います。あと、「家族が病気なのにのんびり××とかけしからん」とか言う人が減りそうな気がする。

私に関して言えば、自分はほんとに大矢さんの日記のファンなんだなと痛感しました。書評家として活躍されてることはよく知ってたけど、そちらの活動はまったく追いかけていなくて、でもリハビリ日記が本になったらば、一も二もなく本屋に飛んでって取り寄せてもらって(普通に探したんですけど置いてなかった。でも、取り寄せ分以外にも入荷したみたいなんで、多少貢献したと言えましょう)、「もっと読みたい!もっと書いてほしい! 書き下ろしで!」て、思いました。(三部構成の本で、第三章は日記の再録分なので、覚えるくらい読んでたので若干物足りなかった) 書評で食べてはる人に失礼だとは思うんですけど……ていうか私はたぶん、書評ってもの自体がそんなに好きじゃないんだなー。なまもの!書評はときどき読むけど、それは、「私の好きな日記を書いている大矢さんという人が、私が興味を持ったこの本をどう読んだのか知りたい」ていう気持ちなんですよ。書評をチェックはしないけど日記(エッセイ的なもの)は読みたいし売り上げに貢献もしたいので、リハビリ日記の続編が出るといいなあと思います。倒れてから一年後二年後、どういうことがあってどうクリアしたり折り合いをつけたりして、って、きっとあんまり本になってないだろうから、需要あるんじゃないのかなあ。

あと、この本を読んでいて不満に思ったことが二つあって、ひとつは「一人称が<あたし>じゃないこと」(笑)。なまもの日記での大矢さんの一人称はずっと<あたし>で、私の脳内で大矢さんは<あたし>で喋る人だったので、なんかこう違和感が! あるわけなんですよ! 一般書籍だし、仕方ないんですけど。
もうひとつは、「大矢博子の職業が書評家である」ってことに、日記内で一度も言及されなかったこと。いや、もう、ほんとどーでもいいんですけど、プロフィールに書いてあるし、本文が始まる前の登場人物紹介にも書いてあるし、おまけに私はそもそもそのこと知ってるし、何の差し障りもないんですけど、なんかこう、ミステリの条件出しを一個すっとばされちゃったようなもやもや感が拭えなくて、「出版社に電話したり病院で仕事したりするシーンはあるけど、大矢さんが書評家だっていつ明かされるのさ!」て、やきもきしてしまいました。って、いま思ったんだけど、書いてあって読み飛ばしてるんだったらどうしよう。なんたって初読のときに「ヴァン・ダインです」を読み飛ばした女だからな……!(78ページで出てきます、てご本人からご指摘いただきました。ありがとうございます。そしてやはり私は「ヴァン・ダインです」を読み飛ばした女だった……!)

内容はリハビリ日記のこの本、帯でドアラが推薦文を書いてることもあって、文芸書、女性エッセイ、介護福祉、闘病記、スポーツ、ドラゴンズコーナー(!)と、さまざまな棚に置かれているようです。本屋で店員さんに「ドアラの本ですね」と言われた方もいらっしゃるそうです。うちでもろちさんに「何、この本」と怪訝な顔で訊かれ、「なまもの!の大矢さんの本だよ」と答えたら、「なんだ、MMDのせいできみが急にドアラファンになったのかと思った」と言われました。確かにね、ドアラの出てくる動画見てたもんね……。
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