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米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件(下)』

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

ちょっと落ち着いたので、改めて感想を書いてみることにします。内容に触れるのでたたみます。
ミステリの良い読者ではないので、ミステリ的にどうなのかは私には何も言えません。読んでるうちに、事件の真相はなんとなく分かってきたので、ミステリ的に<意外な真相!意外な犯人!>ていう話じゃないんだと思うんですが、だからって面白くないわけではなくて、ていうか私にはだいぶ面白かったです。

でもそれよりなにより、小佐内さんが素敵でした。なんて魅力的な子だろう。たまらんなあ。火事の登場シーンの愛らしいことといったら。上巻では点数の下がりっぱなしだった小鳩くんも、なかなかいいところを見せてくれて良かったです。

私ほんとにこれ読みながら、幸せで嬉しくて泣いちゃったんですけど。
恋とはどんなものかしらって、知りたくて、普通の恋愛の形をなぞってみて、悪いものじゃなくて、結構楽しかったりして、でも、やっぱり、<体温が上がる>のは、それじゃないんだよね。求めてるものは一般的な幸福とは違う、傍目におかしなものでも、それでなきゃだめなんだよね。
糠に釘じゃなくて、打てば響くものが欲しいよね。

ずっとそういうことが言いたかったんだなあと思って、それを他の人が言ってくれたことが嬉しくて、思わず泣いちゃったんだろうなあ。


で、他の感想をちらちら見ていたら、<小佐内と小鳩は化け物or人非人>みたいな意見がいくつかあって驚きました。そうかな? 小鳩くんは傍から見たら変なとこに気が回りすぎるのがちょっと鬱陶しい子で、小佐内さんは、復讐のターゲットが自分になったらだいぶ嫌だけど、そうでなければ、ややきつい性格した可愛い子、で済むと思うんですが(そしてそこがたまらんと私は思うわけですが)。小鳩くんは仲丸さんの奥底までは見ようとしなかったけど、仲丸さんも小鳩くんのことちゃんと見てたわけじゃないしねえ。愛がないのが問題なのかしら。私は思い込みの愛より相互理解のほうが大事というか、好きなのでそう思うのかな。

『栗きんとん事件』の二組のカップルは、誰もが誠実な恋愛という点では何かしらルール違反をしてたわけですよね。小鳩くんと小佐内さんは最初から恋してないし、仲丸さんは三股かけてるし。瓜野くんはその点、いちばん純粋に恋をしていたわけだけど、<勝手にキスしようとした>っていうのは相当罪深いと思う。っていうか、小佐内さんじゃなくても、大概の女の子が怒るんじゃないかしら。少なくとも私は怒りますね。
小佐内さんの復讐は瓜野くんの自尊心を叩き折って踏みつけにしたけど、<勝手にキスしようとした>って話を多少脚色して流すだけで、瓜野くんを船戸高校の社会的に抹殺することもできたような気がするので、小佐内さんの復讐はまだやさしいんじゃないかと思う(でも<社会的抹殺>を選ばなかったのは、小佐内さんの趣味の問題のような気がする)。


ていうかあれだ、狐と狼が小市民のふりをしようとして、でも小市民になりきれなくて、だからこんどは狐と狼として一緒にいようねって言ってるのに、「おまえらは小市民じゃなくて狐と狼だ!」ってあげつらったってしょうがないじゃん、て思ってるんですね、たぶん。
『春期限定』のころの小市民ぶってる二人が、私はすごく気持ち悪くて苦手で、でも、羊の皮から見え隠れする小佐内さんがすごく可愛くて、やっと狼らしくなってんだから文句つけないでよ!みたいな。ぜったい!ぜったいこっちの小佐内さんのほうが可愛いじゃん!ふたりの間にあるものは恋愛じゃないかもしれないけど、でもすごいきゅんとするじゃん!

そういうわけで私はとても満足なのですが、でもここまできちゃったら、冬期限定では何やるんだろう。<次善の策>じゃない恋人の出現? お互いが本当の恋人になる? どれもピンとこないんだけど、<今度こそ本当にお別れ>とかだったら泣いちゃうなあ。楽しみなような怖いような、複雑な気分です。